醍醐味とは物事の本当の面白さ、深い味わい、神髄。
のことらしい。
寒空の下、11月22日のマーケットは始まった。
前日から比べると8℃も気温が低い。なのに相変わらずたくさんのボランティアさんがおしかけてくれる。かじかむ手に息をふきかけながらの竹テント設営。あるボランティアさんが「これを毎月やんないと調子出なくて!」と笑顔で声をかけてくれた。頼もしい女子大生がいたもんだと思う。
今回いくつか嬉しい買い物ができた。
一つは水菜。みなさん水菜って聞いて思い浮かべるのは薄緑の綺麗な白い茎の目立つひょろ長いあれだと思います。今回僕が出会えたのは長野県東御市の自然農園たかはしさんの自然農の水菜。種は植えずに蒔く、耕さない、草も最低限を刈る。肥料も与えない。もちろん化学農薬も使わない。野の草と競わせギリギリ勝たせるお手伝いというスタンスで育て、逞しい野菜を育てる。スーパーの水菜と比べると背丈は凡そ半分。でも太さ、もといゴツさは倍。色も陽の光で育った緑。生命の力、強い荒々しさを感じる 風貌。実は僕も畑をやっていた時、この見事な水菜を作ったことがあり、店で売っているものの何倍もの香り、特に噛めば噛むほどしみ出す旨味を知っていた。「あっ、あの水菜に遇えた!」文字通りの掘り出し物を見つけた僕の目の輝きに気づいてくれてか、たかはしさんはその水菜の根っこを嬉々として見せてくれた。「!!!っ」太い! 根っこを刈った跡の直径が1センチ弱もある。この根っこに吸い取られちゃ、地面もたまったもんじゃないな。と思わせる出来映え。その地味を思うと生唾が出そうになる。さっそく買って、昨夜、思いつくまま「鯖のしゃぶしゃぶ」をした。鯖をアツアツの出汁にくゆらせ食べた後、この水菜と短くて青い大根の桂剥き、土曜の築地本願寺のマーケットで出店していた石田農園さんの春菊も小松菜も入れた。石田さんも自然農。この日は母と二人で鍋をしたのだが、いつもは別段会話のあまり無い食卓も、二人でシミジミと「…うまいねぇ」「…おいしいねぇ」と掛け合いが止まらない。母が急に目を閉じた。熱かったのかな?と思ったら「おいしぃ〜」なんだか嬉しくなった。会話といった話しでは無いが、実に裕福な時間だった。
食後にもう一つのお楽しみ、山形県新規就農者ネットワークのリンゴ。 先月のマーケットでここの顔、松藤さん食べさせて貰った王林。信じられないほど美味しかった。が、松藤さんは「こんなもんじゃないんだよ、今年は日照時間が少ないからまだなんだよ」と話していた。今回はそれからひと月経ったリンゴを楽しみにしていた。並んだリンゴから、とっても良い香りが上って来る。そして、もう一つそこにいた若いリンゴ農家さんが「僕はフジがオススメです!」と売り込んできたので乗った。鍋の後、母と二人で食べた。王林の香りの良さ、すがすがしくも風味のある甘さ、かすかに酸味。母はもう食べられないと言いながら、次に手が伸びる。次にフジ。このフジを切ったら中身が黄色かった。断面の3分の1は蜜だ。食べると、……「蜂蜜の味」だった。
それからしばらく、母と僕は無言でお腹をさすっていた。